STORY ストーリー
1943年、第二次世界大戦末期。
ベルリンの爆撃を逃れ、義両親のいる田舎町で戦地にいる夫の帰りを待つローザ。その場所は“狼の巣”と呼ばれる、ヒトラーの総統大本営「ヴォルフスシャンツェ」がある森の近くだった。
ある日、彼女はヒトラーの毒見役に命じられ、他の若い女性たちとともに、親衛隊から銃を突き付けられながら食事をすることに。
ヒトラーが食す最高の料理を、死と隣合わせの最悪な状況で口にする苦悩の日々。
そして1944年7月、総統大本営でヒトラー暗殺を狙うクーデター(7月20日事件)が勃発。
戦局が混迷を極める中、彼女たちの運命は──。
COMMENT コメント
※敬称略・五十音順
渋谷哲也
ドイツ映画研究/日本大学文理学部教授
ヒトラーの毒見役だったという女性の告白を裏付ける歴史的資料はいまだ見つかっていない。
だがそれが史実だったかはさておき、食卓を囲む一部屋にナチスドイツの戦争のリアルを収斂させた本作はユニークかつ秀逸な反戦映画である。
田野大輔
甲南大学文学部教授・ドイツ現代史
厳重に警備された総統大本営「ヴォルフスシャンツェ」内の一室で、時に銃を突き付けられながらヒトラーの食事の毒見をさせられた女性たちの物語。東プロイセンの荒涼とした寒村、コンクリート張りの冷たく無機質な食堂、野菜中心の質素で味気のない食事が、戦争の指揮を執る独裁者の殺伐とした心象風景を照らし出す。突如として司令部で大きな爆発音が鳴り響き、女性たちや周囲の村落の人たちの間に動揺が広がっていく様子は、1944年7月20日に発生したヒトラー暗殺未遂事件の描写として秀逸である。
長澤 均
服飾史家/デザイナー
登場人物の衣装の細部から家具調度品まで、ここまで歴史考証にこだわった映画がかつてあっただろうか。
デザインの再現にとどまらず、当時の織りを復元したコート、編み地のみならず傷んだほつれまで作り込んだセーターやカーディガン。
戦時の貧しい装いが際立つが、そうしたディテールが画面や物語と呼応して限りなく美しい。
レナート・ベルタの見事なカメラ、シルヴィオ・ソルディーニの行き届いた演出。細部そのものが映画全体を示した稀有な作品である。
ブレイディみかこ
ライター
食べるか?死ぬか?
その究極の状況下でひっそり息づいていたシスターフッドに胸打たれた。
こういう話がいま明かされることの時代性を考えさせられる作品だ。
マライ・メントライン
ドイツ公共放送プロデューサー
主人公たち「毒見役」は一見、理不尽に陥れられた「犠牲者」「被害者」のように見える。本人たちの主観でも同様だろう。しかし実はそんな単純なものではない。狂気の時代にて加害・被害の境界は不気味な逆説の様相を見せる。そう、本作はこれまであまり語られることのなかった、加害と被害が溶け合う「濃縮図式」ストーリーなのだ。まさに、ここでしか垣間見えないナチズム内幕の心理というものがある。そこに勧善懲悪は無い。
山崎雅弘
戦史・紛争史研究家
戦争は、兵役対象年齢の男だけでなく、全ての国民を巻き込み、それぞれに役割を与える。誰も逃げられない。平時なら異常とされる状況が、戦時では日常化し、各人は与えられた役割を真面目に果たすうち、正気と狂気を行き来する生活が当たり前となっていく。
そんな静かな不条理を、ある役割を与えられた女性たちの視点で描き出す作品。
これは、遠い世界の出来事ではない。目を凝らせば、すぐ身近にその兆しが見えている。