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      第79回ヴェネチア国際映画祭 審査員特別賞受賞
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映画『熊は、いない』 no bears


      カンヌ、ヴェネチア、ベルリン。世界的に高い評価を受けるジャファル・パナヒ監督。閉鎖的なイラン社会と人々との関係を描き続けてきた集大成が完成。しかし本作発表後、パナヒ監督はイラン当局によって収監された──。
監督・脚本・製作・主演  ジャファル・パナヒ
      2022|イラン|ペルシア語・アゼリー語・トルコ語|107分|5.1ch|1:1.85|日本語字幕:大西公子 字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン 配給:アンプラグド 監督・脚本・製作・主演  ジャファル・パナヒ
      2022|イラン|ペルシア語・アゼリー語・トルコ語|107分|5.1ch|1:1.85|日本語字幕:大西公子 字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン 配給:アンプラグド
英ビリング
9.15金 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
イランの村で起きたある掟にまつわる事件──“熊”とは何か? その答えは映画の中にある
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熊

Introduction

第79回ヴェネチア国際映画祭
審査員特別賞受賞

“熊”とは何か?
その答えは映画の中にある

長編デビュー作『白い風船』(95)で第48回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞して以来、世界三大映画祭ほか主要映画祭にて高く評価され続けるイランの名匠ジャファル・パナヒ監督の最新作。

市井の人々の日常を通してイラン社会の置かれたリアルな現実を描き続けるも、政府から2010年に“イラン国家の安全を脅かした罪”として20年間の映画制作禁止と出国禁止を言い渡されたパナヒ監督。それでも抑圧に屈せず様々な方法で映画を撮り続け、2010年以降に本作を含めた5本の長編は全て極秘に撮影。あらゆる制約を回避し自身を映画の題材にすることで、ミニマムながら工夫と発想に富んだ豊かな映画を作り続ける、世界で最も勇敢な映画監督として知られている。

最新作『熊は、いない』でパナヒ監督は、イランの村からリモートで映画を撮影する監督役として主演を務める。撮影で滞在していたイランの小さな村で起きたあるトラブルに、監督自身が巻き込まれていくという物語だ。自国イランでは上映禁止だが、本作は見事、第79回ヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を獲得。日本でも第23回東京フィルメックスのオープニング作品として上映されると「圧巻の一本!」「脳裏に焼き付いて離れない」と目の肥えた映画ファンたちがこぞって絶賛。世界から称賛される注目作。

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熊

Story

国境付近にある小さな村からリモートで
助監督レザに指示を出すパナヒ監督。
偽造パスポートを使って
国外逃亡しようとしている男女の姿を
ドキュメンタリードラマ映画として
撮影していたのだ。

さらに滞在先の村では、
古いしきたりにより
愛し合うことが許されない恋人たちの
トラブルに
監督自身が巻き込まれていく。
2組の愛し合う男女が迎える、
想像を絶する運命とは......。

パナヒの目を通して
イランの現状が浮き彫りになっていく。

熊

Director

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ジャファル・パナヒ
監督・脚本・製作・主演

              イラン映画の歴史には検閲を押し返し、
              この芸術の存続を確保するために奮闘してきた独立系の監督たちの存在が常にありました。
              この道を歩む中で、映画製作を禁止される者や亡命を余儀なくされる者、孤立無援に陥る者もいました。
              それでも、再び創造するという希望が、存在理由なのです。
              いつ、どこで、どんな状況であっても、インディペンデントの映画監督は創作しているか、
              考えているかのどちらかなのです。
              ジャファル・パナヒ(ニューヨーク映画祭での上映時メッセージより)

1960年7月11日生まれ。イラン・ミアネ出身の映画監督、脚本家、映画編集者。高校卒業後2年間の兵役を経て首都テヘランにある国立メディア大学で映画の製作や演出を学ぶ。その後、TV番組などで短編映画を制作した後、1994年にかねてよりファンだったアッバス・キアロスタミに連絡を入れ、その2日後に『オリーブの林をぬけて』の助監督という地位を得る。翌年、キアロスタミが脚本を務めた『白い風船』(95)で長編映画監督デビュー。第48回カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞する。同作は、カンヌで初めて受賞したイラン映画である。その後も、『鏡』(97)で第50回ロカルノ国際映画祭金豹賞、『チャドルと生きる』(00)で第57回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞、『オフサイド・ガールズ』(06)で第56回ベルリン国際映画祭銀熊賞ほか、数々の賞を獲得している。

イランで過ごす人々の生活に目を向けた人道的な視点が作品の特徴で、子どもや貧困層、女性の苦難に焦点を当てた作風で知られている。

イランの女性に対する厳しい社会的抑圧をリアルに描いた『チャドルと生きる』、サッカーのイラン代表を応援したい女性たちがスタジアムへ潜り込もうと奮闘する(当時イランでは女性がスタジアムでスポーツ観戦することが禁止されていた)『オフサイド・ガールズ』の2作でイラン政府と数年間対立。2010年3月に妻、娘、15人の友人と共に逮捕され、後にイラン政府に対するプロパガンダで起訴される。このイラン国内でのパナヒに対する刑罰に、世界中の映画製作者、映画団体、人権団体が猛抗議。しかし2010年12月、6年の懲役刑と、20年間の映画制作を禁止宣告される。控訴の結果を待つ間に撮った、ビデオ日記の形で綴られるドキュメンタリー長編映画『これは映画ではない』(11)は、撮影データを入れたUSBをケーキの中に忍ばせイランから運び出し、2011年の第64回カンヌ国際映画祭でプレミア上映され絶賛された。

引き続き、政府に映画制作を禁止されているはずだが、その後も精力的に撮り続けており、2013年2月、第63回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門で盟友カンボジヤ・パルトヴィと共同監督で撮った『閉ざされたカーテン』(13)が上映され、銀熊(脚本)賞を受賞した。その他、『人生タクシー』(15)は、2015年2月に開催された第65回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門でプレミア上映され、映画祭の最優秀作品に贈られる金熊賞を受賞。『ある女優の不在』(18)は、第71回カンヌ国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞。母国イランでは上映できないが、海外の映画評論家や批評家らからは熱い支持を受け続けている。

Filmography
(主な監督作品)

  • 『白い風船』(95)
    第48回カンヌ国際映画祭 カメラドール
    (新人監督賞)
  • 『鏡』(97)
    第50回 ロカルノ国際映画祭 金豹賞
  • 『チャドルと生きる』(00)
    第57回ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞
  • 『クリムゾン・ゴールド』(03)
    第56回カンヌ国際映画祭
    「ある視点」部門 審査員賞
  • 『オフサイド・ガールズ』(06)
    第56回ベルリン国際映画祭 銀熊賞
  • 『これは映画ではない』(11)
    第64回カンヌ国際映画祭プレミア上映
  • 『閉ざされたカーテン』
    (13/カンボジヤ・パルトヴィと共同監督)

    第63回 ベルリン国際映画祭銀熊(脚本)賞
  • 『人生タクシー』(15)
    第65回 ベルリン国際映画祭 金熊賞
  • 『ある女優の不在』(18)
    第71回 カンヌ国際映画祭 脚本賞
  • 『熊は、いない』(22)
    第79回 ヴェネチア国際映画祭 審査員特別賞

comment

*順不同・敬称略

怒りていう、逃亡にはあらず。ラストシーンを見た瞬間、この言葉を思い出した。 映画をもって抵抗する作り手たちの魂。それでも尚、ユーモアをもって語られていることに心震えた。

ここに映されている出来事は今も世界中で起こっている。

瀬々敬久
映画監督

イラン映画を観る時は、画面に映っている事象の奥に広がる外部を想像する必要がある。

この映画ではあらゆる場面の奥から外部の牽引力が働き、観ている僕を一気に最後まで連れていってしまう。それ自体がすごい体験だが、連れていかれた先でのエンジン音の余韻は今も響いている。

外に、熊はいないのか?

ダースレイダー
ラッパー

ここにあるのは閉鎖社会の呪縛と、「撮りたい画」という暴力性だった。

抑圧に抗い、時に表現の世界を内省的に見つめる監督が、一日も早く映画の現場に戻ることを願う。

安田菜津紀
メディアNPO Dialogue for People副代表
フォトジャーナリスト

なぜ逮捕されても禁止されても、自国が“知られたくない”実情を題材にし続けるのか。 ジャファル・パナヒ監督が命をかけて闘い続ける理由が、本作で明らかになる。

いびつな社会が生み出す物語は、私たちの生きる場所についての話でもある。
だからこそここで監督自身が表現する覚悟の姿は、いまを闘うための勇気を与えてくれるのだ。

小野寺系
映画評論家

『これは映画ではない』(2011)から続く、「映画の否定としての映画」の傑作。
タイトルの「熊は、いない」を理解するには、映画の中盤に登場する村人のセリフ
「〔熊は〕いるもんか 俺たちを怖がらせる作り話さ 怖がらせて力を得る者がいる 熊はいない 張り子だ」
が鍵となる。

国境付近の村に、熊は、いない。しかし熊がいることを信じる迷信は、ある。
その迷信に振り回されているのは誰か、それを使い権力を握る者は誰か。

映画に巧みに散りばめられたイラン社会が抱える問題のメタファーには、厳しい状況に置かれながらも、 イラン国内にとどまり続けるパナヒ監督の痛切なメッセージが込められている。

村山木乃実
宗教学、ペルシア文学研究者

劇中でパナヒから儀式を撮影してくるように頼まれた村人は、不慣れなために録画と停止を逆に操作してしまい、図らずもそこには村人たちの本音が記録されている。そんなエピソードにはパナヒの狙いが示唆されている。

本作は、ある場面や出来事が撮影された(されなかった)ことをめぐって展開していく。
登場人物たちは、映像や画像に翻弄され、彼らの運命までもが大きく変わる。パナヒは、登場人物たちの関係に常にカメラを介在させることで、抑圧や軋轢を炙り出し、閉塞したイラン社会を浮き彫りにしている。

大場正明
映画評論家

トルコの町とイランの村、二つの場所でパナヒ監督の思惑が予期せぬ波紋を呼び、 現実を携えた虚構(フィクション)はやがてカオスと化す。

映画撮影や国外への出国禁止、国家の暴力に晒されながらも映画を作り続ける監督が、 自身の芸術の在り方について内省を試みた野心作。

藤本高之
イスラーム映画祭主宰

ジャファル・パナヒ監督を知らなくても、映画を観れば《熊》とは何かを知ることができます。
すると不思議と監督のことを知りたくなるはずです。世界で最も勇敢な映画監督のことを。

新宿武蔵野館 支配人
菅野和樹

ジャファル・パナヒ監督が彼の映画作りの前に立ちはだかるハードルをアイディアと覚悟で跳び越えたり くぐり抜けたりしながら、あたたかいユーモアと鋭い批判性をそなえた新作を届けてくれるたびに、 心の中で喝采を送っています。今回も痺れました。

ところで、自作に本人役で出演する映画監督が時々いますが、彼ほど良い塩梅で「映画監督のジャファル・パナヒおじさん」を演じられる人はいないと思います。俳優パナヒの「良い塩梅」ぜひご注目ください。

静岡シネ・ギャラリー 副支配人
海野農

第79回ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞を受賞した今作『熊は、いない』。

興味をそそるタイトルの物語の中身は、パナヒ監督が撮るドキュメンタリードラマのカップルと、パナヒ監督が滞在する国境近くの村でのカップルという2組を通してイランの現状を描くという力作だった。
熊はいるのかいないのか、ぜひ劇場でパナヒ監督のメッセージを受け取って欲しい。そしてきっと思うだろう。 パナヒ監督の作品をこれからも観続けたいと。

伏見ミリオン座 副支配人
岩﨑方哉

緩やかで朴訥とした演出ながら107分間緊張が途切れることがない。
しきたり、掟、教義、法律、文化、文明、権力、正義、自由、家族、国境、友情、愛情、子供、責任、幸福、平和、そして“映画”について考えさせられる見事な作品。どんな圧力や苦難にも屈することなく映画を撮り続けるジャファル・パナヒ監督は、きっとカメラとPCの上に手を置いて映画の神様に宣誓したのだと思う。

彼の強い意志と覚悟と行動力に勇気をもらった。

シネ・リーブル梅田 営業係
瀧川佳典

日本に暮らしている中ではおおよそ直面することのない、イランの不条理な問題を目撃すると同時に、 慣習に従って生きるイランの人々の言動からはある種の既視感を覚える。

ドキュメント性が極めて高く感じる演出だからこそ身に迫るものがあり、果たして自分はあの村人のように【熊】なんか居ないと言えるのか、そもそも日常に潜む【熊】をどれだけ認識できているのか試されているようにも感じた。

アップリンク京都 副支配人
鳥井優希

虚実をいとも簡単に、幾度も越境して見せる鮮やかな語り口が浮かび上がらせるのは、戒律やしきたり、こうであれという願い、恐れるべき熊。

大いなる者の不在の中で抑圧し合う人間の愚かな営みを冷ややかに見つめながらも、映画監督という、この世で最もエゴイスティックなアーティストをも皮肉に晒してみせる自己言及っぷりに痺れました。

KBCシネマ スタッフ
八重尾 知史