――聞こえるか。
この世はノイズで溢れている。いつまでも、どこまでも。
社会の端でもがく男の生の感情と絶望を、
心をヤスリで削られていくかのような疲労感、徒労感、緊張感で捉えた衝撃作
ノイズにまみれた唯一無二の映像表現で観る者を哀しき虚無に突き落とす衝撃の問題作。
徹底的に抑制されたトーンのなか映し出される主人公の目を覆う行動は、観る者に凄まじい疲労感を与え、観ること自体が拷問と言われたほどの衝撃的なインパクトを残す。観終えた後の切なさ、やりきれなさは一生脳裏にこびりつき、離れることはない。
主演に性格俳優として知られる『パルプ・フィクション』(94)、『ユージュアル・サスペクツ』(95)のピーター・グリーン。悪役を演じることの多いグリーンのキャリアにおいて、珍しい一作となっている。『クリーン、シェーブン』は1993年、米国コロラド州テルライド映画祭でワールドプレミア後、カンヌ映画祭の“ある視点”部門やサンダンス映画祭に正式出品されるなど、30以上の国際映画祭で上映。スミソニアン博物館群のひとつであるハーシュホーン美術館やニューヨーク近代美術館、そしてアメリカ精神医学会でも上映され、スティーヴン・ソダーバーグ、ダーレン・アロノフスキー、ジョン・ウォーターズといった監督や評論家たちから、忘れがたき表現性の高さを絶賛された。
日本では1996年にレイトショーのみで公開され、一部の人々の間でその悲惨さと哀愁が終始漂う陰鬱とした作品全体の雰囲気が話題となり、未だに語り継がれるも観ることができない“伝説的作品”となっていた。
精神的に病理を発生した者を主人公に据えた作品を、物語として、一人の人間として、改めて冷静な視点で再評価するに、ついに機は熟した。2021年、我々は25年ぶりに再び怪電波の洪水に溺れ、見えざる者からの視線や思念に慄き、あらゆる可能性に怯え、途方に暮れる時が来た。『クリーン、シェーブン』は心が死んでいる者と、そうでない者を通してこの世の不条理を見つめる、美しく鮮烈で、哀しく、残酷な一作。
Comments are closed.