私はこの狂気の世界で生きていく

世界が引き裂かれる時

2014年、ウクライナ・ドネツク州 平穏な日常が崩れていく
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INTRODUCTION
ウクライナとロシアの国境地帯、小さな家で暮らす出産を間近に控えた妻とその夫。明け方、夫婦の家が突然襲撃され、大きな穴があいてしまった。これは戦争なのか?
妊娠中の妻は家を離れようとせず、夫は親ロシア派分離主義者の友人から組織に誘われるも、はっきり結論を出せないでいる。その間に、親ロシア派と反ロシア派双方の対立は次第にエスカレートし、事態は破局に向かっていく……。
2014年にウクライナのドネツク州で実際に起こったマレーシア航空17便撃墜事件を背景とした戦争ドラマ。監督は本作が長編5作目となるウクライナ人女性監督マリナ・エル・ゴルバチ。長回しのワンカットや遠近法を効果的に用い、ワイドスクリーンの中で広い空間を舞台にしながら、死が待ち受ける逃げ場のない閉塞感を醸しだした。ロシアのウクライナ侵攻が始まる直前の2022年1月、第38回サンダンス映画祭ワールドシネマ部門で監督賞を受賞し、続く第72回ベルリン国際映画祭でパノラマ部門エキュメニカル賞を受賞、さらには第95回アカデミー賞®最優秀国際長編映画賞ウクライナ代表にも選出されるなど世界各国で41冠の栄誉に輝く。ラスト15分は、深まる民族間の衝突、差し迫ってくる戦争の緊迫感に圧倒される。のちに現実となってしまうロシアのウクライナ侵攻を予見させる衝撃の問題作。
STORY
2014年7月。ロシア国境近くにあるウクライナ東部ドネツク州グラボベ村。
妊娠中の妻イルカと夫トリクの住む小さな家が爆破され、家の壁に大きな穴が出来てしまう。子供の誕生を心待ちにしていた彼らの穏やかな生活は一変。果てしなく続く「広大な大地」。その中にある「壊れた小さな家」。壁にあいた大きな穴から死の影が見え隠れする中、夫婦は徐々に親ロシア派と反ロシア派の対立に巻き込まれていくのだった。
MAP
CAST
イルカ
オクサナ・チャルカシナ
OKSANA CHERKASHANA
1988年5月7日ウクライナ・ハルキウ生まれ。『世界が引き裂かれる時』で、第34回パームスプリングス国際映画祭のFIPRESCI(国際映画批評家連盟)最優秀女優賞を受賞。主な出演作は『Tata』(22)。
トリク
セルゲイ・シャドリン
SERGEY SHADRIN
1980年3月8日ソ連のハリコフスカヤ州生まれ。2021年6月3日没。主な出演作は『Le dernier mercenaire』(21)、『Maksym Osa』(22)。
ヤリク
オレグ・シチェルビナ
OLEG SHCHERBINA
主な出演作は『Kiborgy. Heroyi ne vmyrayut 』(17)、『Cherkasy』(19)。
CHARACTER CHART
DIRECTOR
監督
マリナ・エル・ゴルバチ
MARYNA ER GORBACH
1981年7月17日生まれ。ウクライナ・キーウ出身の映画監督、脚本家、プロディーサー。キーウ国立 IK Karpenko-Kary Theatre, Cinema & Television University(ウクライナ)で学んだ後、Andrzej Wajda Master School of Film Directoring(ポーランド)を卒業。トルコ人映画監督メフメット・バハディール・エルと結婚しており、監督デュオとして、本作を含む3本の長編映画を一緒に監督および制作している。2017年以来、ヨーロッパ映画アカデミーのメンバーでもある。主な監督作 : 『Black Dogs Barking』(09)、『Love Me』(13)、『Omar and Us』(19)
COMMENT
言葉が見つからない。ただもう凄い映画です。
農家の夫婦の普通の暮らしの真っ只中に戦争が飛び込んでくる。
その普通さと異常さが見事に描かれている。
2014年にウクライナの東部、ドンバスで本当に起こったこと。
それから9年、今がどんなことになっているのか、
ただもう胸が痛いです!
加藤登紀子(歌手)
どんな結末ならばこの物語の人々にとっての救いとなるのだろう
と考えながら見続けて、
自分たちの非力さを痛く感じた。
映画を見終えてもまだ本当の結末を知ることはできない。
描かれるのは、2014年ウクライナ東部ドンバスなのだから。
今もなお矛盾のただ中にある。
片渕須直(アニメーション映画監督)
平穏な暮らしに、にじり寄る狂気に満ちた現実。
広大な土地をとらえた詩的映像のなかで、
人々の心に静かに巣食う虚しさと
主人公・イルカの情動が見るものの心に突き刺さる。
これらの物語の続きが、いまある『世界』なのだと痛感する。
児玉浩宜(写真家)
ウクライナの田舎の、だだっ広い風景。
空と大地のコントラストがとても美しい。
人間の愚かさが調和を乱し、風景は不安定になる。
世界を乱すのは決まって人間だ。寓話的なタッチが、
しみじみと恐ろしい映画である。
上田洋子(「ゲンロン」代表)
普段の生活は多様な彩りでできあがっている。
それをたったふたつに分けてしまうのが戦争だ。
敵と味方、生と死。
乱暴にも土足で、断りもなく。
そのとき僕は彩りを守ることができるだろうか。
崩れた部屋を掃除し、レンガを積み直すように。
速水螺旋人(漫画家)
2023年6月17日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
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