INTRODUCTION
第2次世界大戦下、アウシュヴィッツ強制収容所。
“絶滅の地”で何を思い、闘い続けたのか     
ホロコーストを生き抜いたボクサーの知られざる実話
本作は、アウシュヴィッツ強制収容所で司令官や看守らの娯楽として消費される葛藤を抱えながらも、生き延びることを諦めずにリングに立ち続けた一人のボクサーの実話を基にしたヒューマンドラマ。
モデルとなった実在のボクサー、タデウシュ・“テディ”・ピトロシュコスキは、看守やカポ(囚人の中の統率者)を相手に数十戦の勝利を収め、囚人仲間にとってナチスの恐怖を打ち破り生き残るための希望の象徴だった。元囚人たちの証言や、本人の記憶をもとに、彼が歩んできた歴史を見事に映像化。
世界を震撼させた“悪”を描くだけでなく、それに対抗する“希望”について描いた本作の監督を務めたのは、ポーランド出身でホロコースト生存者の孫でもあるマチェイ・バルチェフスキ。スティーヴン・キングの物語を映画化した短編デビュー作『My Pretty Pony』(17)はロサンゼルス映画批評家協会賞をはじめとする数々の賞を受賞。
主演を務めたのは、『イレブン・ミニッツ』(15)、『ダーク・クライム』(16)など、60本近くのポーランド映画に出演し、『Bogowie』(14/原題)では、イーグル賞で最優秀助演俳優賞を受賞したピョートル・グウォヴァツキ。本作では屈強な肉体と精神を兼ね備えたボクシングチャンピオンの役を演じるため、クランクインの数か月前からトレーニングを重ね、肉体改造に成功。スタントマンなしで過酷な撮影にも挑み、死の淵に立ちながらも生きることへの不屈の闘志と尊厳を保ち続けた主人公を力強く演じた。
大戦の記憶が薄れゆく中で、戦争がどれほど悲惨で人を狂わせるのかを改めて見せつけられた今年。“絶滅の地”で何を思い、闘い続けたのか―。生き延びることを諦めなかった男の知られざる半生を描く衝撃作。
STORY
第2次世界大戦最中の1940年。アウシュヴィッツ強制収容所に移送される人々の中に、戦前のワルシャワで“テディ”の愛称で親しまれたボクシングチャンピオン、タデウシュ・ピトロシュコスキがいた。彼には「77番」という“名”が与えられ、左腕には囚人番号の入れ墨が刻まれた。十分な寝床や食事を与えられることなく過酷な労働に従事させられていたある日、司令官たちの娯楽としてリングに立たされることに――。
MAP
1942年、第三帝国時代のドイツの領土を示す地図
現在の地図
DIRECTOR
マチェイ・バルチェフスキ
Maciej Barczewski
ポーランドの映画プロデューサー、監督、脚本家。グディニャ映画学校卒業。スティーヴン・キングの物語を短編映画化した『My Pretty Pony』(17)で監督デビュー。グダニスク、シカゴ、ニューヨークで、メディア法の教授も務める。ホロコーストの生存者の孫であり、本作が長編デビュー作。
フィルモグラフィー(プロデューサーとして参加)
『ザ・ベスト』(17)、『Herbert. Barbarzynca w ogrodzie』(21)
CAST
タデウシュ・“テディ”・ピエトシコフスキ役
ピョートル・グウォヴァツキ
Piotr Glowacki
1980年3月29日生まれ、ポーランドのクヤヴィ・ポモージェ県トルニ出身の俳優。2004年以降、60本以上の映画やテレビシリーズに出演。『Bogowie』(14/原題)では、イーグル賞最優秀助演俳優賞を受賞した実力派俳優。
フィルモグラフィー
『Bogowie』(14)、『暗殺者たちの流儀』(15)、『イレブン・ミニッツ』(15)、『ダーク・クライム』(16)、『Marie Curie』(16)
連絡指導者役
グジェゴシュ・マウェツキ
Grzegorz Malecki
1975年6月20日生まれ、ワルシャワ出身の俳優・声優。 国立劇場を代表するトップ俳優でありながら、テレビやラジオでも活躍。2014年には、ポーランド国立放送交響楽団とジャズミュージシャンらと共にアルバム『Marmolada na ksiezycu (原題)』をリリースしている。
フィルモグラフィー
『ワレサ 連帯の男』(13)、『バトル・オブ・ワルシャワ 名もなき英雄』(19)ほか
収容所指導者役
マルチン・ボサック
Marcin Bosak
1979年9月9日、ウッチ出身の俳優。1995年からキャリアをスタートさせ、TVシリーズ「Mヤク・ミウォシッチ」(03-)で広く知られるようになり、数々のテレビドラマ、映画に出演し活躍している。
フィルモグラフィー
『Superheroes』(10)、『ポコット 動物たちの復讐』 (17)ほか
ウォルター役
ピョートル・ヴィトコフスキ
Piotr Witkowski
1988年12月12日生まれ、グダニスク出身の俳優。 2011年、TVシリーズ「Plebania」でキャリアをスタートさせ、数々の舞台、ドラマ、映画に出演。2019年には『Proceder』で若くに亡くなったラッパーを演じ、高い評価を受けた。
フィルモグラフィー
『リベリオン ワルシャワ大攻防戦』(14)、『Proceder』(19)ほか
ヤネック役
ヤン・シドウォフスキ
Jan Szydlowski
ポーランド出身の俳優。2016年から俳優業をスタートさせ、多くのテレビドラマシリーズや映画に登場した。
フィルモグラフィー
『Planet Single』(16)、『Bride and Groom』(18)ほか
ブルーノ役
マルチン・チャルニク
Marcin Czarnik
1976年3月23日生まれ、オシフィエンチム出身の主に舞台で活躍する俳優。2000年にヴィトルド・ゴンブローヴィッチの小説を舞台化した「トランスアトランティック」出演をはじめ、数々の舞台に立ち、2011年にはポーランド共和国文化勲章グロリア・アルティス・メダルを受章した。
フィルモグラフィー
『サウルの息子』(15)、『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(19)ほか
騎兵大尉役
マリアン・ヂェヂェル
Marian Dziedziel
1947年8月5日生まれ、シロンスク出身の俳優。ポーランドで最も権威のあるグディニャ映画祭で2004年に『The Wedding』で最優秀男優賞、2011年に『The Mole』で最優秀助演男優賞を受賞。半世紀に及ぶキャリアの中で、100本以上の映画やテレビシリーズに出演している。
フィルモグラフィー
『戦場のピアニスト』(02)、『マイティ・エンジェル』(14)ほか
COMMENT
敬称略/五十音順
収容所って何やねん。
人が人殺すって最悪や、やめてくれ。
今生きてるワシらかて、全員生き残った命。
武器は持たへんけど、
困った仲間はみんなで助け、希望は忘れへんぞ。
物語りの中のみんなから、そんな気持ち、伝わったよ。
赤井英和(元ボクサー、俳優)
命も希望も、尊厳も奪った、圧倒的な暴力。
生き延び、語り継いだ人々が、
この物語に何を見出したのか。
目撃して、想像してほしい。
荻上チキ(評論家・ラジオパーソナリティ)
収容所の悲惨な日常に打ちのめされる。
それでも彼は立ち上がる。
人々に未来を託されたから。
期待を背負うことは重荷だが、希望でもある。
果たして、自分は
こんなふうに生き抜けるだろうか?
今日マチ子(漫画家)
収容所を生き抜くためのボクシング。
こんなものは本来のスポーツではないと嘆きつつ、
主人公は、希望をたぐりよせようと、拳を浴びせる。
その拳は、ナチスに対抗する強烈な自尊心の表れだ。
これは遠く以前の物語ではない。
いま、元世界ヘビー級チャンピオンの
キーウ市長・クリチコの拳は、
リングではなく戦場にある。
阪本順治(映画監督)
ボクシングとは憎くもない相手と
殴り合わねばならぬ残酷なスポーツだ。
だからこそ試合後リングの上でお互いを讃え合う
ボクサーの姿が神々しいのだ。
絶滅収容所アウシュビッツでの
ボクシングはもはやスポーツではない。
ボクサーテディの命を賭けた拳闘が凄まじい。
劇場で目を背けずに観て欲しい。
武正晴(映画監督)
負の遺産を振り返り続ける。
それこそが正しい未来を選ぶことだ。

だから彼らは忘れたい歴史を描き続けるのだろう。
過去の過ちを忘れ去る友人は信用できない。
それは国も個人も同じではないか。
正しく思いだす者でありたい。
古舘寛治(俳優)