INTRODUCTION
幻想的、皮肉、残酷、奇妙奇天烈……イギリス最強のコメディ集団〈モンティ・パイソン〉に唯一のアメリカ人アニメーターとして参加、映画『未来世紀ブラジル』(85)や『バロン』(88)、『12モンキーズ』(95)、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)などで知られる鬼才テリー・ギリアム監督の描いてきた世界観を表すなら、必ずと言っていい程このような言葉が飛び出すであろう。テリー・ジョーンズと共同監督の『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(75)を経て、1977年に初めてテリー・ギリアムが単独監督を果たしたのが『ジャバーウォッキー』である。本作は、ルイス・キャロルのナンセンス詩を基に着想され、パイソンズ・メンバーのマイケル・ペイリンが主演を務めた中世ファンタジック冒険コメディ。とある王国を舞台に凶暴な怪獣退治に巻き込まれた青年の活躍をブラック・ユーモア満載で描いている。日本では1980年に初上映後、VHS化されたのみであり、やがてテリー・ギリアムは独自の世界観を持った映画監督として名を馳せるようになり、ファンの間では観る事ができない“隠れた名作”として知られていた。 元の素材は長年放置され劣化も進んでしまっていたが、この度、本作の大ファンであるマーティン・スコセッシとジョージ・ルーカスの出資により4Kレストアを実施するという奇跡が起こり、テリー・ギリアム監督もスーパーバイザーとしてレストアを承認。「私が選ぶ物語には、常に皮肉が中心となっています」と語るギリアムだけに、溢れんばかりのシニカルな視点とイマジネーションの原点が凝縮された本作が45年の時を経て帰ってくる。鮮やかなりしめくるめく世界に、あなたは笑うか、唖然とするか。
『ジャバーウォッキー』は、わたしにとって初めて“自分の作品”と呼べるものでした。
自分は本物の映画監督だと信じ始めたのは、この作品を振り返った時だったと思います。
わたしが皆さんのために楽しんで作ったように、ご覧になる皆さんがこの作品を楽しんでくださることを願っています。
――テリー・ギリアム
STORY
村娘に片思い中の純朴な青年デニスはある日、樽職人だった父の死をきっかけに仕事を求めて街へ出ることになる。その一方で、とある王国では凶暴な怪獣の出現に困っていたブルーノ王が、怪獣退治が出来る屈強な騎士を探すため、トーナメント戦の大会を開催。デニスは仕事を求めて偶然ブルーノ王国に足を踏み入れるが、いつの間にかトーナメント戦に巻き込まれ……。
CAST
マイケル・ペイリン
デニス・クーパー
MICHAEL PALIN as Dennis Cooper
1943年5月5日生まれ、イングランド、ヨークシャー出身。オックスフォード大学卒業後、テレビ業界入り。69年からBBCで放送された『空飛ぶモンティ・パイソン』で一躍有名に。大学時代からの盟友テリー・ジョーンズとはBBCのTVシリーズ『リッピング・ヤーン』(76〜79)も共作。テリー・ギリアム作品には『バンデットQ』(81)や『未来世紀ブラジル』(85)などに出演。近年の出演作は『ミラクル・ニール!』(15)、『スターリンの葬送狂騒曲』(17)など。
マックス・ウォール
ブルーノ懐疑王
MAX WALL as King Bruno the Questionable
1908年3月12日生まれ、英ロンドン出身。コミカルな動きの“ウォロフスキー教授”のキャラクターで人気を博した。ミュージカル映画『チキ・チキ・バン・バン』(68)、チャールズ・ディケンズ原作『Little Dorrit』(87)、TVシリーズ『Born and Bred』(78〜80)などへの出演で知られる。90年没。
テリー・ジョーンズ
密猟者
TERRY JONES as Poacher
1942年2月1日生まれ、英ウェールズ出身。オックスフォード大学のコメディサークルにてマイケル・ペイリンと出会う。『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(75)ではテリー・ギリアムと共同監督、『モンティ・パイソン/ライフ・オブ・ブライアン』(79)、『モンティ・パイソン/人生狂騒曲』(83)では単独で監督を務めた。『ラビリンス/魔王の迷宮』(86)の脚本を執筆、『エリック・ザ・バイキング』(89)では原作・脚本・監督を兼任した。20年没。
デボラ・ファレンダー
王女
DEBORAH FALLENDER as Princess
1955年5月18日、英ロンドン出身。映画『おかしな関係』(84)、『未来警察』(84)、『恋しくて』(87)ほかに出演。77年にはプリンス・オブ・ウェールズ劇場で上演されたミュージカル『I Love My Wife』にも出演した。『大逆転』(83)などに出演したスーザン・ファレンダーとは姉妹の間柄。
ジョン・ル・メスリエール
パセルリュー
JOHN LE MESURIER as Chamberlain
1912年4月5日生まれ、英ベッドフォードシャー出身。20代から演技を始め、第二次大戦従軍後、40年代に俳優業復帰。TVシリーズ『Dad's Army』(68〜77)で有名に。主な出演作は『クレタの風車』(64)、『ミニミニ大作戦』(69)、『新シャーロック・ホームズ おかしな弟の大冒険』(75)。83年没。
アネット・バッドランド
グリゼルダ・フィッシュフィンガー
ANNETTE BADLAND as Griselda Fishfinger
1950年8月26日生まれ、英ウェスト・ミッドランズ出身。75年、TV映画『The Naked Civil Servant』で女優デビュー。代表作はTVシリーズ『小公女』(86〜87)、『チャーリーとチョコレート工場』(05)など。『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』(20〜)に出演するなど、今も現役で活躍中。
ハリー・H・コルベット
従者
HARRY H. CORBETT as Squire
1925年2月28日生まれ、ミャンマー、ヤンゴン(当時のビルマ、ラングーン)出身。幼少期に英マンチェスターに移住。英国の人気シットコム『Steptoe and Son』(62〜74)で主要キャストに務めた。その他の出演作に、ホラー・コメディ『Carry on Screaming!』(66)など。82年没。
STAFF
テリー・ギリアム
監督・脚本
TERRY GILLIAM Director / Screenplay
1940年11月22日生まれ、アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス出身。若い頃は広告業界で働いていたが、60年代にイギリスに移住。67年に子供向け番組『Do Not Adjust Your Set』にアニメーターとして参加、そこで後のモンティ・パイソンのメンバーであるテリー・ジョーンズ、エリック・アイドル、マイケル・ペイリンらと出会う。69年に始まった『空飛ぶモンティ・パイソン』では、主に切り抜きと写真によるアニメーション・パートを担当。映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(75)でジョーンズとともに監督を務め、77年、『ジャバーウォッキー』で長編初監督。以降、『バンデットQ』(81)、『未来世紀ブラジル』(85)、『バロン』(88)、『フィッシャー・キング』(91)、『12モンキーズ』(95)、『ラスベガスをやっつけろ』(98)、『ブラザーズ・グリム』(05)、『ローズ・イン・タイドランド』(05)、『Dr.パルナサスの鏡』(09)、『ゼロの未来』(13)といった長編映画を世に放ち、熱狂的なファンを生み出し続けている。ブラックなユーモアと鋭い体制批判の眼差し、アクの強いファンタジー表現は唯一無二の個性を放つ。18年には、構想30年、企画頓挫すること9回の紆余曲折を経て『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』を完成させた。