前作『マリウポリの20日間』で戦争によって日常が奪われていく現実を伝えたミスティスラフ・チェルノフ監督。
アカデミー受賞後、監督は再びウクライナへ戻り、戦争が現在進行形で続く戦地最前線へと向かった──。
2023年、ウクライナ軍第3強襲旅団の小隊に同行し、ロシアに占領されたドネツク州・アンドリーウカ村の奪還作戦の様子を記録した本作は、ニュース映像や文字だけでは決して伝わらない戦場の現実を突きつける。映像のほとんどは、兵士たちのヘルメットカメラやドローンによって撮影されたもので、観客は彼らとともに、アンドリーウカ村までのわずか2000メートルを進むことになる。実際の眼の前に広がる戦闘映像は、かつてない臨場感に満ちている。冗談を交わし、煙草を吸い、家族や未来について語る若い兵士たち。そして、その直後に訪れる死。チェルノフ監督は、戦争が始まる前に、私たちと変わらない日常を生きていたひとりの人間として彼らを見つめ続ける。激しい銃撃戦、ドローンによる襲撃、絶え間なく降り注ぐ砲弾、そして荒廃した大地に横たわる亡骸――。戦争とは何か。そこでは何を失い、何のために戦うのか。その答えが、この映画には刻まれている。

DIRECTOR

ミスティスラフ・チェルノフ
(監督)
1985年生まれ、ウクライナ東部出身。映画監督、従軍記者、ビデオグラファー、フォトジャーナリスト、小説家。
ピューリッツァー賞およびアカデミー賞受賞者。尊厳の革命(ユーロ・マイダン)、ドンバス紛争、マレーシア航空17便撃墜事件、シリア内戦、イラクでのモスル奪還作戦、そして2022年のロシアによるウクライナ侵攻などの取材で知られる。
チェルノフがAP通信の一員として行ったマリウポリ包囲戦の報道により、2023年、 AP通信は公益部門にてピューリッツァー賞を受賞。さらに、ドイチェ・ヴェレ「言論の自由賞」、ICFJナイト国際ジャーナリズム賞、バイユー・カルヴァドス=ノルマンディー賞、イライジャ・パリッシュ・ラブジョイ賞、フリー・メディア・アワード、カナダジャーナリスト表現の自由協会(CJFE)国際報道自由賞、王立テレビ協会テレビ・ジャーナリズム賞、シェフチェンコ・ウクライナ国家賞など数々の栄誉を獲得した。マリウポリでのAP通信による映像報道は、映画『マリウポリの20日間』の基盤となった。同作は、第39回サンダンス映画祭 観客賞(ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門)を受賞。さらに第96回アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞、第77回英国アカデミー賞(BAFTA)でも最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した。
最新作『戦場0地点』では、第41回サンダンス映画祭 監督賞(ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門)、第47回ニュース&ドキュメンタリー・エミー賞 最優秀監督賞を受賞。第98回アカデミー賞ではウクライナ代表に選出され、第79回英国アカデミー賞 ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。
現在はAP通信の記者のほか、ウクライナ・プロ写真家協会(UAPF)会長を務めている。また、2022年7月よりウクライナPEN会員。

COMMENT

(五十音順)
性能の上がったヘルメット装着カメラがなせるもの――図らずも接写的に写り続ける枯れた木の小枝や根っこ、逆に無限遠的に写り続ける空模様、そして、その間にある人間のあまりに虚しい営み。見ながら終始「消耗」の一語が頭に重くのしかかった。英雄の消耗。
会田誠
美術家
言葉が虚しく消えゆく戦場で飛び交う人間らしい感情のやりとり。銃を乱射する兵士のすぐ後ろで撮影するジャーナリストの視野。眼前で爆破が起こり死者が出る。ロシア兵が穴から出て投降する。最高度の緊迫感。ウクライナの若者たちが自発的に志願して祖国のため戦場に赴く意思を私たちはなかなか理解できない。ロシアによるウクライナ侵略があまり報道されなくなったいま。多くの日本人に戦争のリアルと非人間性を「体験」してもらいたい
有田芳生
衆議院議員
戦争を肯定する人、憎む人、あるいは遠い国の出来事だと目を背けている人にこそ観てほしい。最前線の「2000メートル」という距離がいかに長く、残酷であるか。この映画を見終えた後、帰り道の2kmを歩くことで、あなたは本当の「平和の重み」を全身で噛み締めることになるだろう。
岡部芳彦
神戸学院大学松口正記念ウクライナ研究センター所長
AIやサイバー攻撃、プロパガンダを駆使する華々しいハイブリッド戦とは異なる戦争の世界が、ここにある。泥まみれの人間が地を這い、殺し合うロシア・ウクライナ戦争の最前線。この映像を撮影した兵士の幾人かは、すでにこの世にいない。その重さをかみしめつつ、なぜウクライナがこのように戦わなければならないのかを考えたい。
国末憲人
ジャーナリスト/東京大学特任教授
戦争とは、破壊と死です。演技ではなく、実際の戦闘を撮っているので、ロシアによるウクライナ侵略戦争の悲惨さがよくわかる映画です。毎日、死と隣り合わせにいる前線の兵士はいかに苦しい環境にいるか、伝わります。カメラの前に元気に喋っている兵士の話の後、『この人は、〇ヶ月後、〇〇で戦死した』とナレーションが流れる場面は、何度も出てくるが、その度に胸が苦しくなります。後半には、『時間が経てば経つほど、世界はこの戦争について忘れていくだろう』という台詞は出てくるが、これは最大のメッセージなのではないかと個人的に思います。私が皆様に一番訴えたいことは、この戦争のことを忘れないで頂きたいということです。忘れられたら、この悲惨な戦争はいつでも終わらず、苦しい思いをする人や死んでいく人は増えるだけです。一刻も早く終わらせるために、どうか、ウクライナに必要なサポートをお願いしたいです。
グレンコ アンドリー
国際政治学者
2023年の春、アンドリーウカにほど近いコンスタンチノフカまで足を運んだことがある。
一帯は雪に覆われていた。白い風景の向こうから迫撃砲の音が響き、前線の近さを感じさせた。
かつてロシア軍が占領していた村に入ると、家々は崩れたままで住民の気配はなかった。
砲撃や炎によって焼かれ、炭のように黒くなった木々を目にした。地上戦の痕跡だった。
『戦場0地点』に現れる焦げた森は、そのときの記憶を鮮明に呼び戻した。

2000メートル。地図の上ではわずかな距離だ。
しかし戦場では一歩進むたびに人が傷つき、命を失い、風景そのものが変わり果てていく。
兵士たちのヘルメットに装着されたカメラは、その距離を進む者たちの息遣い、恐怖やためらいまでも記録する。
2000メートルは果てしなく遠い。

私がその地を訪れてから約3カ月後、ウクライナ軍による反転攻勢が始まった。
しかし戦況の好転を告げる知らせは届かない。
難航を伝えるニュースの向こう側で繰り広げられていた凄惨な現実をこの映画は突きつける。

この映画には戦争を美化する視線も英雄譚も存在しない。
映し出されるのは破壊された森、倒れていく人間、そして生き残ろうとする身体だけだ。
戦争の内側をこれほど近くから記録しながら、そこに戦争を肯定する余地は一切残されていない。
これは戦場から届けられた純然たる反戦映画である。
児玉浩宜
フォトグラファー
これは、まさに本物だ…‼私もウクライナ現地を取材する記者の端くれとして、この映画のやばさ、ヒリヒリする空気感がよくわかる。それこそ、震えるほどに。あらためて思う。報道スタジオでの『戦況解説』では決して伝わらないものが実際の戦場にはあると。日本でのウクライナ侵攻への関心が低下している今だからこそ、この映画を観てほしい。実際に戦場で戦っている兵士達が何故そこにいるのか、何を思い、どんな経験をしているのかを、この映画で追体験してほしい。エンドロールが流れる時、あなたの中に湧き上がるだろう感情を大切にしてほしい。
志葉玲
戦場ジャーナリスト
木々の朽ちた穴だらけの荒野、視界を覆う粉塵、銃声と砲声、塹壕から見上げる空、自爆ドローン、身を寄せ合う仲間、誰かの悲鳴、戦争が無ければ失われなかった命。
兵士たちのヘルメットカメラと同行したチェルノフ監督の手持ちカメラによる21世紀の戦場の最前線。
今、知るべき現実。
武田一義
漫画家「ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 」
いくらAIが発達しようが、最後に陣地を取る時は白兵戦となる。鼓膜が破れるような銃撃音。視認距離で敵と向き合う。私もその只中に身を置いたことがあるが、白兵戦ほど怖いものはない。
『戦場0地点』は、この最前線にカメラを持ち込んだ。命懸けなどという生やさしいものではない。決死の撮影である。戦場のリアルを音と視覚で体感したい方は、映画館に足を運ぶといいだろう。
田中龍作
ジャーナリスト
勝者の主観史であるところの「歴史」からは透明化され、なかったことにされてきた<ひと>としての兵士の声。存在。生。戦場に放り込まれた隣人たちとわたしとを、明確に区別する線などないということを、あまりにも淡々と知らしめられる。
春ねむり
ミュージシャン
奪還されたはずの土地が、再び占領される。多くの命を犠牲にして進んだ2000メートルの先にあったのは、村の名だけを残した廃墟だった。そこに暮らしていた人々の記憶や日常は、いまも瓦礫の下に埋もれ、もはや痕跡をたどることすら出来ない。それでもウクライナの人々は、抵抗をやめれば国を失うことを知っている。私たちはこの現実に何を言い、何を行い、何を差し出せるのか。本作は、目を背けることを許さない。
東野篤子
国際政治学者/筑波大学 人文社会系教授/ウクライナ研究会 副会長
『戦場0地点』は、単なる戦争の凄惨さを描いた映画ではない。兵士が命を懸けて辿り着いた先は瓦礫の山だった。それでも前へ進むのは、占領とは単なる土地の強奪ではなく、人々の言葉や記憶、未来を、時間をかけて消し去る暴力だからだ。本作の英語タイトルにも出てくる「2000m」とは、ロシア化に抗い、ウクライナとしての未来を死守するための距離である。国家の尊厳と国民を守るとは如何なることかを、世界に厳しく問いかける傑作だ。
廣瀬陽子
慶應義塾大学 総合政策学部 教授/政治学者
ウクライナ軍第3強襲旅団の小隊に同行した監督と兵隊につけたカメラで作られたロシアとウクライナの戦争のドキュメンタリー。映画よりもサバイバルゲームのが近い乾いたリアリティ。普通に雑談していた兵士は死んで動かなくなる。戦争について語るのであれば、見ておかなければならない映画の一つ。
ひろゆき
実業家
「兵士になりたくなかった」と戦場の前線に立つ若き将校は言う。月日が経とうとも、いや月日が経ってしまっているからこそ、この戦争が不条理な侵略から始まったことを忘れてはならないだろう。
安田菜津紀
メディアNPO Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト
火薬や血の匂いのたちこめる塹壕の中で、ウクライナの若い兵士と語り合うような気分に包まれる。“観る”というより“体験させられる”ような特別なドキュメンタリー作品。
山田洋次
映画監督

AWARDS

[ 受賞 ]
第47回 ニュース&ドキュメンタリー・エミー賞 最優秀監督賞
第40回 全米撮影監督協会 (ASC) ドキュメンタリー部門 撮影賞
第78回 全米監督組合 (DGA) ドキュメンタリー監督賞
第78回 全米脚本家組合 (WGA) ドキュメンタリー脚本賞
第97回 ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 ドキュメンタリー映画トップ5
第36回 ストックホルム国際映画祭 ドキュメンタリー賞 (ブロンズホース賞)
第41回 サンダンス映画祭 ワールドシネマ・ドキュメンタリー部門 監督賞
第22回 コペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭 (CPH:DOX) F:ACT賞 (現実とジャーナリズムの融合を評価する賞)
第22回 Docudays UA映画祭 作品賞/人権賞/観客賞 (トリプル受賞)
第27回 Docavic国際ドキュメンタリー映画祭 国際コンペティション作品賞
第8回 ウクライナ映画批評家賞キノコロ賞 最優秀監督賞/最優秀ドキュメンタリー作品賞
第6回 OKO国際民族映画祭 観客グランプリ/審査員特別賞
[ ノミネート ]
第98回 アカデミー賞 ウクライナ代表 (長編ドキュメンタリー部門)
第79回 英国アカデミー賞 ドキュメンタリー賞
第30回 サテライト賞 ドキュメンタリー作品賞
第35回 ゴッサム・インディペンデント映画賞 ドキュメンタリー映画賞第29 回 オンライン映画批評家協会賞
第10回 放送映画批評家協会賞
第19回 Cinema Eye Honors
第31回 ダラス・フォートワース映画批評家協会賞
第20回 インディワイヤー批評家投票